変わってきた女性の体
最近診察をしていて気がつくのは、不定愁訴を訴える若い女性の患者さんが増えていることです。
不定愁訴といえば、いままではほとんどが更年期の女性でした。
ところが昨今は30代、なかには20代の若い女性が、具合が悪いといって来院されるのです。
主訴は、頭痛、肩こり、めまい、不眠、生理不順、生理痛、月経前緊張症、無月経、
全身俗怠感、足腰の冷え、むくみ、しびれ、腰痛などさまざまです。
症状を並べてみてもおわかりでしょうが、更年期障害とあまり変わりません。
しかも検査をして、器質的な疾患が見つかるのはまれです。
大半は原因不明の自律神経失調症と考えられるのです。
自律神経は心臓や肺、胃、腸など、昼夜にわたって動きつづけている臓器や
器官の働きを自動的に調節している神経です。
呼吸、脈拍、血圧、発汗、体温、排尿、排便など、私たちが生きていくうえで
欠かせない生理作用をつかさどっています。
自律神経は、相反する2つの神経のバランスのうえに成り立っています。
興奮的な作用をする交感神経と、鎮静的な作用を持つ副交感神経です。
このバランスが乱れると、さまざまな不定愁訴が現れてきます。
更年期障害も多くは、この自律神経の乱れによって起きてきます。
自律神経を乱す原因は、いろいろ考えられます。
ストレスや不規則な生活、睡眠不足、喫煙の習慣、飲酒、食事の偏り…。
女性の体はデリケートですから、こうしたちょっとした生活習慣の変化にも、
自律神経が微妙に影響を受けてしまうのです。
そして自律神経が受け持つ範囲は、頭の先から足の先まで広範囲です。
ですから、さまざまな症状が、ときには重なって出てしまうのです。
自律神経失調症の場合、原因の特定が困難なだけに、治療もひと筋縄ではいきません。
ですから患者さんをトータルに診て、たんに症状を緩和するだけでなく、
それを引き起こしている生活習慣全体を見直したり、ストレスを取り除くような治療を行わなければなりません。
そういうことが、将来的には生活習慣病の予防にもつながっていくのです。
いま、更年期の定義が揺らぎはじめています。
更年期とは、卵巣の機能が衰え、女性ホルモンが分泌されなくなる閉経前後の10年くらいを指します。
年齢的には45~55歳が多く、この時期、女性はさまざまな不快症状に悩まされます。
医学的には、もちろんこれが常識ですが、現実に目を向けると更年期と疑わしい若い女性(定愁訴だけでなく、
無月経や生理不順の女性)が増えているのです。
これはつまり、女性ホルモンの働きが順調ではない女性が増えているということです。
女性ホルモンは、女性にとってはとでも重要なホルモンです。
生理が始まるのも、女性らしい体つきになるのも、そして妊娠や出産ができるのも、
すべて女性ホルモンがバランスよく、順調に働いてくれているからです。
そしてあとで書くように、心筋榎塞や脳卒中、骨粗鬆症で寝たきりにならないでいられるのも、
女性ホルモンが女性の体を守ってくれているからなのです。
しかし一方で、女性ホルモンのバランスが崩れると、無月経や生理痛、生理不順など、
生殖機能によつわる症状を引き起こします。
いま、そのバランスの崩れを起こしている若い女性がとても多いのです。
女性のライフスタイルは、ここ20年ほどの間に様変わりしました。
以前なら25歳くらいまでに結婚し、35歳くらいまでに子どもを産み終えるというのが平均的なパターンでした。
ところがいまや働く女性が増え、30代でもシングルという女性が珍しくありません。
会社でも重要なポストに就き、男性と同じように仕事を任されています。
そうなれば当然、ストレスもたまってきます。
といって、男性のようにお酒でストレスを発散させることもできません。
そこで、さまざまな不調が出てくるのです。
ホルモンは、このストレスにとても弱いのです。
仕事優先の生き方になれば、おのずと結婚や出産は二の次になり、出産年齢は引き上げられ、子どもの数も少なくなります。
卵巣の機能や女性ホルモンの分泌もその影響を受け、従来の女性とは違った形で働くようになります。
また、若い女性に多い過激なダイエットも、女性の体をボロボロにします。
女性の体は最低17%の体脂肪がないと、卵巣は正常に機能せず、女性ホルモンも円滑にに分泌されません。
さらに短期間で急激にやせれば、体が危機感を感じて不要なものから切り捨てていきます。
そのとき第一に切り捨てられるのが、生殖機能なのです。
こうしたさまざまなことが、無月経や生理不順、月経困難症の原因になります。
無月経が続けば、そのまま不妊になってしまうおそれもあります。
30代から更年期が始まるといわれるのも、こうした今までの女性にない体の変化が、若い女性に見られるからです。
これまで見てきてわかったように、ストレスは女性の体に大きな影響を与えます。
まずあげられるのは、自律神経への影響でしょう。
ストレスが自律神経を乱すことはよく知られていますが、そのメカニズムは次のように考えられています。
ストレスを受けると、自律神経は副腎にアドレナリンを分泌するように指令を出します。
アドレナリンは興奮作用のあるホルモンで、これを出すことによってストレスを撃退しようとします。
ところがストレスを過度に受けると、アドレナリンが過剰に分泌されるようになり、自律神経バランスが崩れてきます。
そこでさまざまな自律神経失調症状が現れてくるのです。
また、自律神経の中枢とホルモン分泌の中枢は、同じ脳の視床下部にあり、狭いところで隣接しています。
したがってホルモンの中枢は、自律神経の影響を受けやすいのです。
自律神経が過剰なストレスによって乱れると、その影響を受けて女性ホルモンの分泌も乱れてきます。
その結果、生理不順や月経困難症、月経前緊張症など、女性特有の症状が出てくることになります。
それだけでなく、若い人のホルモン異常は、便秘やむくみ、腹部膨満感、ニキビなどの原因にもなります。
ですから、かりにニキビひとつとっても、さまざまな原因を考え、トータルに治療しなければ本当の意味で治すことはできません。
「便秘が原因だから便秘のお薬を出しましょう」というだけでは、だめなのです。
ストレスは万病のもとといいますが、このように自律神経系と内分泌系という、
ホメオスタシス(生体の恒常性)の維持をつかさどる重要な器官を直撃するのです。
これでは具合が悪くなるわけです。
若さと美しさを損なう更年期の症状
更年期とは、閉経前後の10年くらいの時期を指します。
日本の女性の場合、平均的な閉経年齢は50~51歳といわれていますから、
ほとんどの女性が45~55歳くらいの間に更年期を迎えるといつていいでしょう。
しかしもちろん個人差の大きいものですから、30代後半から更年期の症状が現れる人もいれば、
55歳を過ぎて生理がある人もいます。
更年期に入って最初に現れる兆候は、いままで周期的に訪れていた生理が不規則になることです。
どんなふうに不規則になるかは人によって違いますが、一般的に最初は周期が短くなり、
次いで長くなり、だんだん間隔があいていく人が多いようです。
もちろん周期が長くなったり短くなったりをくり返しながら止まってしまう人や、規則正しい生理があって、
あるときピタリと止まってしまう人など、百人百様であることはいうまでもありません。
また、月経血の量も、いままでとは違ってきます。
急に多くなったり、反対に少ない量でだらだら続いたりします。
生理が不規則になる理由は、卵巣機能が低下してくるからです。
卵巣は子宮の両側に対になってついている性腺で、中には卵胞が詰まっています。
ここから卵子が月に1度排卵され、女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが分泌されます。
まさに女性にとって、生殖機能の要といえる器官です。
卵巣は20代から30代の、いわゆる女性の成熟期にもっとも活発に機能します。
エストロゲンとプロゲステロンをバランスよく分泌し、周期的に月経を起こし、妊娠に備えるのです。
ところが30代後半から徐々に衰えはじめ、50歳前後には機能を停止して老年期に入ります。
女性は閉経によって子供を産めなくなるわけで、更年期は産める時期から産めない時期への移行期といえます。
それはいい換えれば、成熟期から老年期への移行期でもあります。
卵巣の機能が低下すれば、卵巣から分泌される女性ホルモンのバランスも崩れてきます。
そこで、月経も不規則になってくるのです。
更年期には、女性の体にさまざまな変調が現れるようになります。
顔がほてる(ホットフラッシュ)、汗をかく、疲れやすい、動悸、息切れ、手足・腰の冷え、頭痛、めまい、
肩こり、腰痛、胸・のどのつかえ、食欲不振、吐き気、頻尿、不眠、抑うつ状態、イライラ…と、
その症状は身体面から精神面まで、多岐にわたります。
もちろん更年期を迎えた女性のだれもが、重い更年期障害に苦しめられているわけではありません。
しかし程度の差はあれ、ほとんどの人にこうした症状は現れてきます。
では、なぜこうした変調が起きるようになるのでしょうか。
それは、急激な卵巣機能の低下に体がついていけなくなるからです。
これまでは卵巣が正常に機能し、2つの女性ホルモンもバランスよく分泌されていました。
その調和のもとに、健康な状態を維持していたのです。
ところが女性ホルモンの分泌が急激に減少し、しかも2つの女性ホルモンのバランスも崩れてくると、
脳の視床下部からは、卵巣にもっと女性ホルモンを出すように指令がいきます。
これが性腺刺激ホルモンで、エストロゲンやプロゲステロンが低下するほど、性腺刺激ホルモンは増加します。
こうした体内のホルモンの乱れが、さまざまな変調の原因になります。
とくに更年期障害は、自律神経失調症と呼ばれる不定愁訴が多くなります。
前述したょうに、自律神経の中枢は脳の視床下部にありますが、
ここは同時にホルモンの分泌の中枢があるところでもあります。
この2つの中枢は互いに影響し合う関係にあり、卵巣機能の低下にともなってホルモン中枢のコントロールが乱れると、
それが自律神経の中枢を乱すのです。
その結果、自律神経失調症と呼ばれるさまざまな不定愁訴が起きてくるのです。
ところで、更年期障害は病気でしょうか。
これまでの女性は、更年期障害を病気ではなく、生理現象のひとつと捉えてきました。
ですからどんなにつらくても、1人でじっと耐えてきました。
私のクリニックにいらっしゃる患者さんの中にも、いろいろな検査をした結果、女性ホルモン以外に異常が見つからず、
更年期障害だとわかるとホッとされる方がいます。
とりあえずへんな病気ではないことがわかり、安心されるのでしょう。
「更年期」のひと言で、症状が軽くなるケースもあります。
たしかに更年期は生理的な現象ですから、いまはつらい症状があっても、時期が来れば治ってしまうケースがほとんどです。
これは、ホルモンの急激な変化に体がなじんでくるからです。
しかしそれまでの間、そのつらさに耐えなければなりません。
私は、このつらい症状をあえて我慢する必要はないと思っています。
痛みや不快な症状があれば、それだけで生活の質は著しく低下し、精神面に与えるダメージも大きくなります。
冒頭で書いたように表情も暗くなり、一気に老け込んでしまいます。
いまは医療が進み、症状を緩和する方法はいくらでもあるのですから、
それを活用して快適な生活を楽しんだほうがずっと有意義だと思うのです。
それはさておいて、私が心配するのは、不快な症状を更年期障害だとご本人が思い込んでしまうケースです。
更年期障害とにた症状は、ほかの病気にもあります。
にもかかわらず、たまたま年齢的に更年期にさしかかっているので、更年期障害だと思って放置してしまう人がいるのです。
医療機関の中にも、ろくに検査をせずに席状や年齢からくる先人観で、
「更年期障害ですから心配ありません」のひと言で終わってしまうところがあります。
しかし、それはとても危険なことです。
たとえば「腰や背中が痛くてたまらない」といって、あなたが医療機関を訪れたとしましょう。
腰や背中の痛みは更年期によく見られる症状ですが、骨そのものに異常がある場合もあります。
腰椎の変形が起きていたり、骨粗鬆症が進んでいるケースです。
この場合は、骨量を測ったり、背中や腰のレントゲンを撮って、骨に異常がないかを調べなければなりません。
下記の表にあるように、「腰や背中が痛い」という症状ひとっとっても、さまざまな病気の可能性があるのです。
私のクリニックでは、まず問診をしてどんな症状が強いかチェックします。
そして血液検査を行い、女性ホルモンの量やそのほかの数値に異常がないか調べます。
さらに、ほかの病気の危険性がある症状に対しては、できる限りの検査を行います。
たとえば、吐き気や腹部膨満感など消化器系の症状を訴える患者さんに対しては、必要があと判断したら、
胃カメラや超音波などで胃や肝臓、胆嚢、牌臓などの検査を行いますし、ほかの病気が隠されていないかを調べるために、
大腸の検査をおすすめすることもあります。
そして、ほかに病気がないとわかった段階で、初めて更年期障害の診断を下します。
なぜ私が診察にこれほど慎重かといえば、更年期障害とまぎらわしい病気がけっこうあるからです。
私が経験した例では、こんな患者さんがいらっしゃいました。
1年前に開経したばかりの50歳の女性です。
2~3か月前から全身俗怠感や胃部に不快感があると訴えて来院されました。
ご本人は更年期障害だと思い込んでおられ、更年期の治療を希望されていました。
しかし「ほかに原因があるといけないから」とお話し、胃透視、腹部エコー、血液検査を行いました。
するとたしかにエストロゲンの低下を認め、更年期特有のホルモンバランスになっていました。
ところが肝機能を表す数値も高く、GOTが135(基準値は40単位以下)、
GPTが180(同35単位)と、中等度の肝機能障害が見つかりました。
更年期障害よう肝炎の治療が先決と考え、急性肝炎の治療を行ったところ、まもなくGOT、GPTとも正常化しました。
それとともに、ご本人が訴えておられた症状もきれいに消失し、非常にお元気になられたのです。
肝機能が低下すると、全身俗怠感やだるさなど、更年期障害と似た症状を訴えることがよくあります。
この患者さんの場合、もし更年期障害の治療だけ行っていたら、症状はほとんど改善されなかったでしょう。
このように、表に現れた症状ばかりにとらわれていると、本当の病気を見逃してしまうことがあります。
安易に「更年期障害だ」と思い込むのではなく、疑わしいときはできる限りの検査をして、
裏に隠れている病気を見落とさないことが大切です。
体調が悪いと、その影響が肌に如実に現れることはすでに書きました。
私のところに来られる患者さんは、40代、50代の更年期の女性が圧倒的に多いのですが、
体調が悪いのを反映して、初めてお会いするときはどの患者さんも顔色があまりすぐれません。
また更年期の症状が強いと人に会うのが億劫になったり、精神的に落ち込むことが多くなり、
よけい肌の調子を悪くします。
更年期が老化の入り口だと思っていらっしゃる方が多いのか、精神的にも老け込んでしまい、
それが肌や髪にそのまま現れてしまうのです。
また、更年期になると肌が乾燥する、シワやシミが目立つようになったと訴える人が増えてきます。
これは女性ホルモンの減少によって引き起こされる症状で、更年期はお肌の状態まで悪くするのです。
私は更年期の症状を、ホルモン補充療法やプラセンタ療法、その他の療法を組み合わせて治療していますが、
興味深いことは、更年期のつらい症状が改善すると、次に患者さんが必ず口にされるのが"美容のこと"です。
10人中10人までが、小ジリが増えた、くすみが気になる。
シミが目立つようになった、髪が薄くなった、バサつくなど、さまざなことを訴えてきます。
コンディションがよくなって、肌や髪に日を向ける余裕が出てきたということでしょう。
しかし、それだけ更年期が美容を損ねるということを自覚されているのです。
実際、治療を受けられると、患者さんはどんどん変わっていかれます。
初診のときは服装にも構わず、お化粧もしてこなかった方が、1か月後にはきれいにお化粧をし、
いままで着てこられなかったよぅな服装をするようになるのです。
お化粧ののりもよくなり、とても若々しくなります。
女性ホルモンの投与で肌の状態がよくなったことや、体調がよくなり、
精神的にも前向きになられることが大きいのでしょう。
最近では、美容を目的に治療を受けにこられる患者さんも増えています。
やさしく穏やかに効く 漢方療法
更年期障害の治療を患者さんにおすすめするとき、
だれにでも抵抗なく受け入れられるのが漢方療法です。
漢方薬は、4千年とも5千年ともいわれる長い歴史を持っています。
その間、人間自身が実験台になって薬効を試してきました。
そして効き目のあるものだけが、漢方薬として現代に残っています。
長い歴史に裏づけられた薬効が、安心感をもたらすのでしょう。
しかし考えてみれば、西洋医学がいまのように発達する前は、
日本人の病気を治していたのは漢方薬や民間療法でした。
その歴史の長さを振り返ると、いまだに西洋医学は漢方療法を
超えることができないのではないでしょうか。
昔から女性の病気と漢方薬は相性がいいようです。
とくに不定愁訴や”血のみち症”といわれる更年期障害によく使われてきました。
漢方薬は、西洋薬のように劇的に効くわけではありません。
じわじわと少しずつ症状を改善していきます。
漢方薬の特徴は、症状を一時的に取るのでなく、
体質に働きかけて体質を変えていくことでしょう。
ですからその分、効き目も緩やかで、効果が現れるまでに時間がかかります。
アロマセラピーと同じで、漢方薬に対しても
「副作用がないから安心」とおっしゃる方がいらっしゃいます。
しかしそれも誤解で漢方薬にまったく副作用がないわけではありません。
まれに、体調が悪くなる人もいます。
薬と毒は紙一重といいますが、体に薬として効くものほど毒性も強いのです。
たとえば漢方薬に配合されている麻黄や附子は非常に強い作用を持ち、使い方を誤れば劇薬にもなります。
ただ、漢方薬の場合は複数の生薬が配合されており、それぞれが毒性を打ち消し合っているので、
ひとつの生薬を取り出した場合よりも効き目が高く、しかも体に穏やかに作用します。
これは、アロマセラピーで使う精油も同じです。
漢方薬は症状だけでなく、患者さんの体質を見ながら処方します。
同じ更年期障害でも、がっちりした体型で体力のある人と、
やせて体力のない人では処方する漢方薬も違います。
適正な効き目を得るには、体質に合った漢方薬を使うことが条件です。
一部の漢方薬に保険が適用されるようになって、漢方薬を治療に使う病院やクリニックが増えてきました。
とくに婦人科領域では、エストロゲンの作用に依存する症状に対して、
漢方薬がある程度の効果を現すことから、補助的療法として漢方薬を使っている医師は多いようです。
漢方薬が効果的な婦人科疾患は、更年期障害のほか、月経異常、生理痛、月経前緊張症、子宮内膜症、
不妊症、頻尿、尿失禁、自律神経失調症、便秘症、ニキピ、肌荒れなど、多数あります。
漢方薬の中には、視床下部や下垂体、卵巣なEを刺激するエストロゲン様作用を持つものがあります。
エストロゲンではありませんが、エストロゲンの働きを助けたり活性化するのです。
たとえば、有薬甘草湯は下垂体、卵巣に作用し、
プロラクチンやテストステロンを低下させることがわかっています。
また湯紅湯はPRL(プロラクチン値)を下げ、さらに上位の視床下部に働き、
LH-RH分泌を増量することが知られ、月経不順や不妊症の治療に用いられています。
同じように間接的に視床下部、下垂体、卵巣系を賦活する漢方薬はたくさんあり、
女性の多数の疾患に使用でき、効果があります。
更年期障害に関しては、HRTの治療を行えない人、HRTだけでは多愁訴が改善しない人に漢方薬を
単独で服用してもらったり、HRTと併用することがありますが、ゆっくり、確実に効果が現れます。
またプラセンタ療法と併用すると、さらに効果的な場合が多くあります。
無月経や生理不順などにも、漢方薬を投与することが多く、大変効果があります。
漢方薬は、1人1人の体質や疾患に合わせて処方していきます。
格段に進歩した肌のトラブル解決法
私のクリニックを受診される患者さんの90%は女性で、
更年期の女性ももちろんですが、若い女性もたくさん受診されます。
その大半は、さまざまな体の不調について相談にこられるのですが、
美容についての相談もかなりあります。
更年期以降の女性に多いのはシミ、シワ、肌の乾燥、くすみなどで、
若い女性は比較的、ニキビや肌荒れ、シミなどが多くなります。
いずれも女性にとって、とても気になる問題です。
以前はこのような悩みがあって病院に行っても、「年のせいです」とか、
「時期が来れば治ります」などといわれ、相手にされませんでした。
私自身も、高校、大学時代と大変ひどいニキビに悩まされ、皮膚科を受診したことがあり、
そのときもやはり「時期が来れば治ります」と、軟膏を処方されただけでした。
しかたなく市販のニキビ用のクリームを顔全体に塗りつづけましたが、
ニキビはあまりよくならないのに、顔全体の皮膚が乾燥し、
炎症を起こすというひどい状態になってしまいました。
しかし、医者となってからは、私なりに最新の情報を集め、
工夫を重ねることでニキビを完治することができました。
現在、医学は発達し、お肌のトラブルに対しても、予防法や改善法が研究され、開発されてきました。
若々しい、トラブルのないお肌を保つために、さまざまなよい治療法が確立されているのです。
美容に関しても、10年前とは格段の差があります。
私はさまざまなお肌のトラブルに対し、必要があればHRTやプラセンタ療法を行うとともに、
ケミカル・ピーリングや、それぞれのお肌のトラブルに有効なクリーム、美容液をおすすめしています。
さらに日々のスキンケアの方法や、日常の生活習慣の見直しについても指導しています。
これまでお話してきたように、HRTやプラセンタ療法は内面からお肌の老化を防止し、
トラブルを改善することが可能な方法です。
しかしこれらを行っていても、お肌の老化を促進したり、
トラブルのもとになる原因を放置しておいたら、せっかくの治療効果もあがりません。
たとえば紫外線は、シワをつくり、メラニン色素の合成を促進し、シミの原因になります。
とくにふだん、日の光を受けやすい顔面は、光老化がもっとも進みやすいところです。
光老化とは、加齢による老化とは別に、紫外線を浴びることによって起きるお肌のダメージのことで、
加齢よりもむしろ紫外線のほうが、肌の老化に大きな影響を与えているかもしれません。
最近はとてもよいサンスクリーンやUVカットの化粧品も市販されていますので、
これらをうまく利用して紫外線からお肌を守る必要があります。
また乾燥した空気にお肌がさらされていると、角質がかさついてシワの原因になります。
お肌の乾燥がつづくと皮膚のバリア(外敵から生体を守る皮膚の防御機構)が低下し、
さまざまなトラブルの原因になります。
さらにストレスや生活習慣から産生される活性酸素もお肌の大敵です。
活性酸素は紫外線を浴びると皮膚にたくさん産生され、肌を傷つけていきます。
また、皮脂を酸化してシミをつくったり、ニキビの原因にもなります。
この活性酸素を防止しなければ、肌の老化やトラブルは回避できません。
このようにお肌は、加齢だけでなく環境によっても老化を強いられています。
こうした原因にも対処しないと、いくらHRTやプラセンタ療法をしても肌の状態はよくなりません。
生活習慣を見直したり、ストレスをなくすなど、もっと総合的に美容も考えていかなくてはなりません。